うつ病は、発症した人のうち約50%以上が再発します。その原因は、否定的な思考や反芻思考(同じことを何度も考えてしまうこと)など。なぜこんなにも再発率が高いかと言うと、うつ病を発症している間に、これらの思考が習慣的に身につくから。しかし逆に言えば、この習慣を止められれば再発率は下がります。
人間は、習慣から外れた行動をするのが苦手な生き物。なので、再発を止めるのは、想像以上に難しいことです。が、セルフコンパッションを身につけている人は、否定的、反芻思考の傾向を減らすことが出来るかもしれません。
今回は、セルフコンパッションとうつの再発との関係をお伝えします。
セルフコンパッションについて学びたい方はこちらを参照ください。
もし完璧主義を治したいならセルフコンパッションを使うこと - 心理の棚
セルフコンパッション尺度が高いと、うつへの対処が上手くなる
セルフコンパッションには尺度というものがあり、数値が高い人ほど、自分に優しく、自己批判傾向が低いとされています。まずは、このセルフコンパッション尺度と、うつへの対処スキルについてみていきましょう。
エクセター大学らが行った研究(1)では、セルフコンパッション尺度とコーピングスキルとの相関関係について分析しています。
コーピングスキルとは、「ネガティブな感情への対処スキル」のこと。このスキルが高い人ほど、うつの時、反芻思考の代わりにマインドフルネスなどの有効なスキルを使うことができるのです。
研究では、過去にうつ病を発症していた、又は現在一時的に改善されている人403人を対象に分析を行ったようです。彼らには、セルフコンパッション尺度と、コーピングスキルに関する質問紙に答えてもらい、2つの相関を調べたとのこと。
分析の結果分かったのは、セルフコンパッション尺度が高い人ほど、
- ポジティブな感情に目を向けるスキルが高い
- 現在への集中スキルが高い
- 自己非難が低い
- 反芻思考の傾向が低い
- セルフコンパッション尺度とコーピングスキルに相関あり
といった感じ。
うつの再発原因である否定的な思考や反芻思考への対処スキルが高かったとのことです。セルフコンパッションを身につければ、再発を防ぐための思考を手に入れられるということになるでしょう。
また別の実験では、エクセター大学は音楽を使って、セルフコンパッションとコーピングスキルが気分に与える影響についても調べています。
次いで見てみましょう。
悲しみを乗り越えられるのは、セルフコンパッション尺度が高い人
エクセター大学は、2つ目の研究として、うつを経験した人たち68人を対象に音楽を用いた実験を行っています。
この実験では、「どのコーピングスキルが気分の改善をもたらすか」と「セルフコンパッション尺度の高さによって、気分の改善に違いがあるか」を調べたようです。
実験のデザインは、
- 質問紙でセルフコンパッション尺度、現在の気分、自分の価値を調査
- 悲しい音楽を4分間聞かせ、過去の悲しい体験を思い出すよう指示
- 質問紙で現在の気分を尋ねる
- マインドフルネス、じっとする、反芻(自分の感情について深く考える)の中から1つ被験者に指示し、気分の改善をさせる
- 質問紙で現在の気分を尋ねる
といった感じです。
この実験も質問紙に頼って気分を調べているので、信頼性が高いとはいえないのが残念なところ。
さて、実験の結果、コーピングスキルについては、
- マインドフルネスとじっとするをしたグループは、悲しみの感情が減った
- マインドフルネスとじっとするグループは、幸福感が増した
- マインドフルネスのみ自己価値は下がらず、反芻グループは自己価値が大きく減った
とのこと。
セルフコンパッションについては、
- 気分が改善しなかったのは、セルフコンパッション尺度が低い人たちであった
- コーピングスキルに関わらず、セルフコンパッション尺度が高い人ほど、自己価値は低下しなかった
という結果に。
反芻思考は、気分の悪化以外にも自己価値をも低めてしまうようなので、注意したいところですね。ただ、セルフコンパッションを鍛えさせすれば、反芻思考はなくなるので、自己価値を低めることもなさそうです。
最後に、論文の著者は次のように言っています。
私達の結果は、セルフコンパッションが気分回復を早め、ポジティブな感情や問題解決の戦略への積極的な関与、ネガティブな経験による不快な反応の減少など、気分に対する適応的な反応をサポートする。
ということで、セルフコンパッションで気分を改善でき、うつによるネガティブな体験を過剰に味わうことも少なくなるでしょう。
まとめ
うつを再発させる原因は、反芻思考や否定的な思考にあります。これらの思考を止めるには、セルフコンパッションを使うことです。うつへの対処スキルが上がると共に、気分の改善効果もあります。
うつではないけど気分が落ち込んでいる人や、うつを予防したいという人にも身につけて欲しいテクニックです。
セルフコンパッションについては、本で学べるので一度読んでみるといいかと思います。